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〝おでこを出した小さな勝負師〟伊藤美誠。万里の長城にヒビを入れた!

中国に破れたものの、確かな爪痕を残した。世界卓球レビュー

■「矛盾」だった平野美宇vs丁寧戦

 第2試合の平野美宇vs丁寧戦も見どころ満載だった。

 このふたりの対戦は「矛盾」の語源を思わせる。どんな盾も突き通す矛と、どんな矛も受け止める盾が戦ったら、どちらかが勝つのか。

 平野美宇が世界一の「矛」で、丁寧が世界一の「盾」。寓話であるためには、互角の勝負をしなくてはならない。

 惜しまれるのは第2ゲーム、第3ゲームともデュースに持ち込みながら、あと一歩が及ばなかったこと。特に第2ゲームは3-8の劣勢から流れをつかみ、追いついてのデュースだっただけに、あれが勝負を分けた場面だったのかも知れない。

 とはいえ、競った場面での〝あと1点〟を取る難しさこそが中国の壁であり、そのとっておきのポイントを取るための戦術を温存してあるかどうかが、世界の頂点との差でもある。

 事実、第2ゲームの10-10から繰り出された丁寧のバックストレートの一打は、この試合初めての攻撃パターンだった。虚を突かれた平野は反応が間に合わず、この返球をミスしてしまう。

 それでも平野も〝あと1点〟を取るために、以前とは違う進化した姿を見せてくれた。

 第3ゲームの終盤、9-9から丁寧のサーブに対してチキータ。9-10からまたチキータ。そして11-10、平野がゲームポイントを握った場面では、いきなりの逆チキータ! リスクのある攻撃的なレシーブを連発したのだ。

 結果的に勝負を懸けた逆チキータはミスになってしまったが、このような奇襲攻撃レシーブを〝あと1点〟の場面で続けて仕掛ける平野美宇の姿は、あまり記憶にない。

 中国のトップ選手から最後のポイントを奪うには、普通と違うことをしなくてはいけないと学び、それをこの大舞台で実行に移してみせたのだろう。似たような場面は、第4試合の劉詩文戦でも見られた。

 不振にあえいでいた平野美宇はもういない。一段階グレードアップして、あらたな戦術コマンドも身につけて、世界一速い矛が戻ってきた。

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田端 到

たばた いたる

1962年生まれ。週刊誌記者を経てフリーのライターに。競馬、野球を中心に著書多数。趣味は五輪競技アスリートのSNSを観察すること。卓球は17年アジア選手権と18年グランドファイナルを現地観戦。


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